山松ゆうきちのボロ小屋 <立ちしょんべん>

カラス  3


       カラス   3 

         ー
    
         足早に階段を上る4人。

         先頭のジャパルが、壁にへばり付き呼吸をととのえ、

         胸のポケットから拳銃を出して、安全装置を外し、
 
         カチッ。

         壁から顔を出して、部屋の並ぶ通路を見る。

ジャパル    「まだだ、慌てるな」


        ー
         エレベーターの扉が開くと、痛そうに頭を押さえていたラップは、

         ふんぞり返って通路に出る。

         後ろには、ボディガード2人が付いている。
        
         7番目のドア507号室のチャイムを、ラップの子供のような

         小ぶりな手で押す。

         ぱぴぽ〜ん。

         しばらく待つが何事もなく、もう一度押す。
  
         ぱぴぽ〜ん、ぱぴぽ〜ん。

         やはり返事は無く、今度は3度押す。

         ぱぴぽ〜ん、ぱぴぽ〜ん、ぱぴぽ〜ん。

         返事が無いので、子供が電卓を叩くように、忙しくせわしなく押し

         まくる。

         ぱぴぽん、ぱぴぽん、ぱぴぽん、ぱぴぽん、ぱぴぽん。

         ちゃっ。

         錠がはずされて、勢いよくドアが開く。

         バン!
         
         ドアは、ラップの額に当たり声も出ずうずくまった。

         いかにも愛人風な、ムチムチした20歳くらいの愛くるしい女性が

         、下着姿で不機嫌そうな顔を出して怒る。

イラーラ    「うっさいわね、用はなあによ」

         女はドアの後ろにうずくまる男を見て、禿に手を乗せて 、

                ムンズとわし掴み仰向かせる。

ラップ      「うぉっ」

          先ほど打った頭の痛みがぶり返し、目を丸めて飛び出させ顔

          をしかめる。

          女は、ラップを見て愛想をくずし、顔を両手で挟んで甘い声を出

          して抱き付き、

イラーラ     「あら〜ん、パパ、イラーラ、待ちくたびれちゃってとっても寂し

          かったわん」

          抱き付かれたラップも、先ほどまでと違って、頭を押さえながら

          も、穏やかで目じりを下げた柔和顔になり、

ラップ      「こ、これ、これ、はしたないマネをするでない、私たちはお父さ

          んと娘のように清らかな中だ、知らない人が見たら誤解される

          ではないか」         

         ー 
          壁に身を隠していたジャッパルが、ヒドルに行けと顎をしゃく   
          る。

          ヒドルが出ようとすると、シンが肩を掴んで止め、

シン        「俺が先に行く、援護してくれ」

          シンは、大きく息を吸って、握った拳銃を背にかくして、ラップに

          向かって歩く。

          シンの後ろに続く3人。

          イラーラは、ラップに抱き付き、禿頭に頬にキスの雨をふらして

          いる。
 
          ラップは、頭の痛みをこらえ、首に巻かれた手を解こうとする           が、

          イラーラは、その手を胸に持っていき、自分の手は腰を撫で、

          下腹をさぐる。

ラップ       「しょうがないな、この頃の子は甘えん坊で困るよ。ははっは

           はは、お前らは車で待っていろ」

           にやけたラップに、頭を下げるボディガード2人。

          
          −
           シンを先頭に4人が近づいて来る。

           ボディガード1が、シンを見て、ラップとシンの間に入り、

ボディガード1   「お前ら、そっちを回れ」

           通路の外側を回るように手で示すが、

           シンは歩きながら、拳銃を出して腹を打つ。

           ドコーン。

ボディガード1  「ぐおぉっ」

          びっくりして驚く、ラップと女。

          腹を撃たれたボディガード1は、シンに抱き付く、

          ドコーン、ドコーン。

          シンはかまわず腹を撃ち、銃のグリップで肩、側頭部を殴る

          が、大男のガードマン1はガッシリと抱えて離さない。

          ボディガード2は、スーツの胸に手を入れ拳銃を抜く。

イラーラ     「ひぃえええええ、きゃあきゃあ」

          ラップは悲鳴を上げるイラーラを、体当たりで突き飛ばして、仰

          向けにでんぐり返った上をして飛び越え、部屋に入り、ドアを閉

          める。

          カチャン。
        
          ドコーン、ドコーン。

          抱えられて動けないシンの後ろから、背中越しにジャパルが、

          銃を抜いて撃とうとしたボディガード2を撃つ。
  
          胸と脇腹に当たリひっくり返るが、銃は離さず、上体を起こして

          撃つ。

ボディガード2  「バカヤロー死ね」
          
          ダコーン、ダコーン。
 
          ジャパルの肩と足に当たり、うずくまる。

          ヒドルは、斜め前に居たジャパルが、撃たれ腰を落として居な
          くなり、一瞬怯む。                          

          横に居たハブラが、ガードマン2を撃つ。

          ドコーン、ドコーン、ドコーン。

          ガードマン2の胸に当たり、顔から血しぶきが吹き飛ぶ。

          3軒隣の住民が、ドアを開けて顔を出すが、一目見て目を丸く

          して驚き慌ててドアを閉める。

         ー

イラーラ     「いや、嫌ぁー、なに、何よこれ、どうしてなの、いや〜」

          仰向けで叫ぶイラーラの、髪を掴んで引き込み、
    
          引き出しを開けてピストルを2丁掴む、ラップの小さい手。

          急ぎ、隣の部屋へ行き箱を開け、もう1丁ピストルを出して、

          イラーラ―へ投げる。

ラップ       「助かりたいなら、お前も応戦しろ、奴らが入ってきたら撃つん

           だ」

イラーラ     「いや、いや、きゃぁ〜」

          怯えて絶え間なく悲鳴を上げるイラーラは、投げられた銃を見

          て絶叫し、部屋の隅へ逃げて壁に背中をへばり付き、 

イラーラ     「違うの、こんなの、私はちがう、関係ないの、嫌、いや、いや

          ああ〜」

          ラップは元の部屋に戻り、机や椅子やテーブルをひっくり返し

          て、バリケードを作る。  

ラップ       「来い」

イラーラ     「いや、やめて、きゃあ〜」

          怯える女を奥の部屋に連れていく。

         ー

          バコーン。
          
          ガチャ、ガチャ、ガチャ。

          銃でドアのカギを撃つが開かない。

          左肩を撃たれたジャパルは、血を流しながら右手の銃を左手

          に持ちかえ、胸からもう1丁、44マグナムの大型拳銃を抜いて

          シンに渡す。

          ダッコーン。

          ドアノブが吹き飛び、

          ダッコーン。

          鍵穴から火花が飛ぶ。 

          シンが肩からドアに当たる。

          ドン。

          もう一回体当たりをする。

          ドン。

          バン。

          開いたドアをゆっくりと全開にして、シンはサッと顔を出して引

          っ込める。

          用心深く顔を出して中を伺いながら、ソロリと室内へ入る。

          左肩と右足を撃たれ,血まみれのたジャパルは、痛そうに顔を
          しかめ、銃を持ったまま動けず、いざってドアの横へ行って行           って座る。

          通路には、ガードマン1がうつ伏せに、顔が欠けたガードマン2

          は、仰向けに白目をむいて倒れている。

          ー
          ハブラは身をかがめ、ヒドルは壁を背に、シンは反対側の壁を

          背にして、注意深く室内の通路を進み、

          ヒドルが、ドアのノブを回すが開かない。

          シンが近寄り、マグナムで撃つ、

          ドッコーン。

          ノブを飛ばすと、ドアはスーと開く。

ラップ      「誰だ、お前たちは。ガンジーに頼まれたのか。ネールかフセイ

          ンか。物取りか、強盗なら奥の部屋に宝石とかねがある、全

          部やるから持っていけ」

          ハブラが、低い姿勢で中に飛び込む。

          ダコーン、パコーン、パコーン、ダコーン。

          ラップは2丁の銃を乱射。

イラーラ     「きゃあ〜、きゃ、きゃぁ」

          ハブラに続いて中に入ろうとしたヒドルは、ラップの撃った弾が

          目の前の壁に当り、一瞬躊躇する。

          気を取り直して、再度銃を上げて飛び込もうとするが、

          バコーン、バコーン。

          ラップの撃った弾が右肩を弾がかすり、1発が左腕に当たる。

ヒドル      「ひいっ、くわわわ」

          ヒドルは銃を持った腕で、左肩を押さえ、身をかがめて通路に
          引き返し、外に居るシンに訴える。

ヒドル      「兄い、駄目だ、やられた、失敗だ、逃げよう」

          シンはヒドルを後ろに下がらせ、入口にへばり付く。     

          「きゃああ、きゃっ、きゃ〜、きゃぁぁぁぁ」

          悲鳴を上げ続けるイラーラを、両腕の間に抱えたラップは、2

          丁の拳銃を撃ちまくる。

          パコーン、ダコーン、パコーン。      
          
          飛び込んだハブラを撃つが、服とズボンをかすめる。

          ハブラは、柱の陰で床に伏し、腕だけ出して応戦。

          ドコーン、ドコーン、ドコーン。

          ブッ、ブッ。

          弾痕が壁に穴を開け、ソファに穴が開いて飛び散る。
                  
          ダッコーン。

          シンは入口でマグナムを1発撃ち、

          2丁の銃を交互に放ち放ちながら中に入る。

          ダッコーン、ダッコーン、バコーン、バコーン。

          ブッ、ブッ、ブッ、カン、コーン。

          ラップが盾にしている椅子に当たり、テーブルに当たって突き          抜け、女の横腹を貫通して、後ろから抱えているラップの腹に          届く。

          「うっ」

          ラップの動きが止まり、女は離され倒れた。
         
          バコーン。

          ラップは腹を抱え、くの字になって床を撃つ。
          
          シンは続けて右手のマグナムを乱射するが、

          ダッコーン、ダッコーン。

          ブコッ、ブコッ。

          反動が大きく、壁に穴を開けるだけで当たらないので、
        、 左手のリボルバーを撃つ。

          ドコーン、ドコーン。

          弾は頭のてっぺんに当たって血が飛び、顔に当たり耳を飛            ばす。
 
          ラップはのけぞって壁まで飛いく。

          カチッ、カチッ。
          
          シンの銃は弾切れ、
          
          変わってハブラが立って撃つ。

          バコーン。

          バムッ。

          右肩に当たり、
          壁を背に力なくズルズルと座る。

          口を開けて血を滴らせ、焦点の無い目は開き、すでに息絶え           たように見えるが、ハブラは更に、狙って心臓を狙って撃った。

          バコーン。

          ドムッ。

          ラップは、ドサッとうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない。

イラーラ     「やだ、やだ、お、願い、助けて、、誰にもいわない」

          鮮血で染まった腹を押さえ、くしゃくしゃになった顔で哀願する、

         イラーラの頭に銃口が近づく。

          ドコーン。

        −

          ドアの前に座っている、ジャパルをハブラとシンが抱え、

          ヒドルは自分の腕を押さえながら、

          マンションから逃げる4人の男。

           しょう、しょう、しょうと雨は依然として降り続いていた。


                                <3回目 終わり> 

              カラス 1   カラス  2
      
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