「大統領閣下、日本はアメリカの不沈空母です、51番目の州だと思って下さい」
突然電話でそう言われて、
第40代米国大統領、ドナルト タンパク ピーマン(仮名)は驚き、
飲んでいたコーヒーを鼻から吹き出しむせた。
「ぶーーっ。ごほっ、ごほっ、くはっ、ふひ〜」
持っていた受話器を落としそうになったが、かろうじて掴み直し、聞き間違いではないかと頭を叩く。
ごつっ、ごつっ、ごっつん。
「大統領閣下どうしました、私の声は聞こえていますか、ジスイズアペ〜ン。私の英語は解りますか、アイアマナカミソ」
「イエス、イエス。ぐふっ、この頃ソ連の連中が、盗聴器を仕掛けているような噂を聞いたものだから、チョット受話器を叩いて調べたのだ、ソーリー、ソーリーもう一度行ってくれ」
「日本はアメリカの不沈空母です。51番目の州と思って下さい」
ホワイトハウスの大統領執務室の中ほどに絨毯を広げて胡坐をかき、プラスチックの疑似骨を撒いては、祝詞を振って占いをしていたナンセ―夫人(仮名)は手を止め、2人の電話を聞いていたヘッドホンを頭から外し、すっくと立って、そばにあったトランプを取り、シャカシャカと急いで切って1枚を表に向ける。
夫人は電話中の大統領に近づき、ハートのキングを見せて耳打ちした。
「ノープロブレム、彼は信用できますよ」
彼女は机の引き出しから、川辺のマーク入りのハンカチを取り出し、目じりを下げにこやかな笑顔で、愛しそうに夫を見ながら、黒いローソクのように鼻からしたっているコーヒーを拭いてやる。
「私のマブダチ、ミスターヤスイミソ。ランボーと言う映画は見たかね。私はあれを見てアメリカの取るべき道が解かった」
中味噌は、時々ピーマンの話について行けない事があった。
大統領はボケているのではないかと思ったが、耳が少し悪いだけだと思いなおし、
「ええ、イエス。見ましたよ。あんな強い男が日本に来たらお手上げですよ」
ピーマン大統領は余程気分が良かったのか、それから6時間の長きにわたって映画の話をつづけた。
「ミスターヤキトリ、バック・トゥ・ザ・フューチャーは見たかね。私はあのムービーに出演している。我々の道にはレールが敷かれている必要はないのです」
「お、おお。ムービーですか。それはお忙しいのによくお時間が取れましたね、早速にその映画を拝見しましょう。ピーマン閣下、私の名はヤスイミソでもヤキトリでも無く、ヤスドリ、中味噌安鳥ですよ、はははは」
話し好きのピーマン大統領の電話はダラダラと長い。
明日には国会の質疑応答が山積しており、早くに床につきたかったが電話を切るわけにもいかず、つたない英語で返事をしながら、相槌を打って朝を迎えた。
次の日、中味噌安鳥は電話を持ち続けた右手を三角巾で吊り、タコの出来た右耳には大きな絆創膏を貼って、国会の予算委員会に寝不足なとろんとした顔で出廷した。
外務大臣庵部新太郎(仮名)は、中味噌の隣に座り、
「昨夜は大変なようでしたな」
ヒソヒソと小さな声で話しかける。
「妻と言うものは幾つになっても嫉妬深いものです。時々狂暴にもなる、同僚の議員やマスコミには、階段で転んだ事にしておきましょうか」
「ん、ああ、そうだね」
ピーマン大統領と話していたのだと、事情を話そうかとも思ったが、面倒だと思い止めた。
庵部はさりげなく持っていたカバンを椅子の下に下ろして、辺りに気を配りながら開けると、中には何十本もの雑多なアンプルが入っていた。
「これは効きますよ」
ユンケルとモカを1本ずつ取り出して、コッソリ中味噌に渡す。
「アルルギーでも大丈夫かね」
庵部は首を縦に振り、
「体力増進と眠気覚ましにはこれが1番」
そう言って、上目で中味噌を見て片目をつむり、
身体を寄せて口を突き出すと、
庵部はギョッとしたように、顔を背けて逃げるが、
中味噌は耳を掴んで引き寄せ、
「バックドフィチャーを見たかね」
「それは何人です。」
「アメリカを代表する映画だよ、ピーマン大統領が出演しているらしい」
「え?ええ、大統領が映画に出演されたのですか。解りました、早速手配し拝見しましましょう」
「頼むよ、私も見たい」
庵部は、バックドフイクチャーを3回見たが、ピーマン大統領の出演したシーンが見つからないと言った。
中味噌もビデオを借りて2回見た。
2人は首相執務室にこもってスローで見直す。
「この映画の出演者は非常に少ない、出演していればわかるはず、大統領は間違われたのかも知れませんね」
「あ、そこストップして、巻き戻してください」
出演者が部屋に入る後ろの壁に、貼ってある小さなポスターの顔が、ピーマン大統領に似ていた。
「まさか、仮にも合衆国大統領ですよ。ポスターごときで出演とは言わんでしょう」
「いや、間違いありません、これですよ」
2人はため息をつき、顔を見合わせて首を振る。
1983年5月、アメリカのウィリアムズバーグでG7によるサミットが始まった。
アメリカとイギリスは、ソ連が東欧のワルイシャンワ―(仮名)加盟国一帯に配備している、ミサイル、SS20に対して、
米国のミサイル、パーシングUクルーズを西側に配備したいと提案するが、
ドイツのハーイ、フランスのミッテナイが、
「そんなのは聞いてない」
と真っ向から反対し、
カナダのトルゾ―(仮名)、イタリアのドッチデモ(仮名)、欧州委員会委員長だった、ガスヌキトルン(仮名)は、アメリカのごり押しにそっぽを向き、会議は白け頓挫物別れとなりそうだった。
この時、代々寡黙で無口だと思われている、日本の首相中味噌総理が突然発言する。
「ヨーロッパのナットー(仮名)加盟国でもなく、平和憲法と非核3原則を掲げる日本は、この種の決議には沈黙してきました。又こういう発言をして我が国へ帰れば、集団的自衛権を認める事に豹変したのかと、非難をあびるでしょう、しかし、世界の平和と安全保障のために断言したい、決裂して利益を得るのはソ連だけです。大切なのは、われわれ西側が結束の強さを示す事であり、12月までにパーシングIIを配備して一歩も引かない姿勢を示す事が大切です。ドイツ、フランス、およびイタリア各国共にアメリカを理解し同調して欲しい」
ピーマン大統領を強力に援護する。
フランスのミッテナイは、聞きたくないと言った仕草で耳をほじったが、何ら対案を持たない各国首脳は、しぶしぶ同調する形になりミサイル配備が決まった。
世界で2番目の経済力を持つまでに成長した、日本の首相であったが、
欧州委員を加えたG7の記念写真や晩さん会の顔見世では、いつも8番目の端が定位置だった。
ピーマン大統領は、自分から離れないように中味噌の腕を取って、イギリスの首相でステンレスの女と言われたサッチャン(仮名)を右に、中味噌が左に立つよう気を使う。
太平洋戦争ではレイテ湾に出撃していて、言動からも右寄りの首相としていかついイメージがあり、
リベラルと呼ばれる人達には、右寄り過ぎると不人気であったが、
G7でのステージでは、常に真ん中でピーマンの隣に立つ姿は、爽快で日本の国民感情は悪くは無かった。
ピーマンは中味噌を、キャンプデードットへ、
次の年は、中味噌がピーマンを夕日の荘へ招待して、
ロス、ミソと呼び合う仲の良いパフォ―マンスをアピールした。